悩む薬剤師医療4.0って何?
薬剤師の対人業務はどうなるの?
2030年の医療とは?
このようなお悩みを解決する記事です!
現在、日本の医療現場はかつてない激動の時代を迎えています。
薬機法改正や調剤報酬改定のたびに「対物から対人へ」というキーワードが躍りますが、その実態は、単にお薬の説明を丁寧にするというレベルの話ではありません。
背景にあるのは、テクノロジーが医療のあり方を根底から覆す「第4次産業革命(医療4.0)」の到来です。



今回ご紹介する「医療4.0 第4次産業革命時代の医療 〜未来を描く医師30人による、2030年への展望〜」(加藤浩晃 著)は、眼科医でありながらデジタルヘルスに精通する著者が、30人のフロントランナーたちへのインタビューを通じて「2030年の医療の姿」を浮き彫りにした一冊です!


本記事では、現役薬剤師の視点で本書を解説していきます!
テクノロジーが進化し、調剤ロボットやAI監査が当たり前になった世界で、薬剤師という専門職が生き残るための道標はどこにあるのか?が気になる方は必見です!
医療を揺るがす「2030年の壁」とは?


はじめに、日本の医療が抱える構造的課題について解説します!
薬剤師にとっても、これは「薬局の外」の話ではなく、自身のキャリアに直結する重要な背景となります。
少子高齢化の「加速」と地域別人口動態の把握
皆さんもご存じの通り、2030年、団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者層に完全に突入します。
ここで注目すべきは、単なる高齢化ではなく「地域ごとの格差」です。
本書によれば、地方ではすでに人口減少が極まっており、都市部では逆に急激な高齢化が進むという、ねじれた構造が生まれます。



これまで「高齢者が増えるから薬局は安泰だ」という話も聞いてきましたが、本書を読むとそう単純ではないようですね・・・



その通りです!
都市部では医療資源が不足し、地方では維持すら困難になります。
薬剤師は自分のいる「エリアの特性」に合わせて、どんなケアが必要とされるかを主体的に考えなければならない時代です。
ただ待っているだけの薬局は淘汰される可能性がありますね!
社会保障費の膨張と「セルフメディケーション」の社会的使命
日本の社会保障給付費はすでに国民所得の約3割に達しており、国家財政を圧迫しています。
国はこの解決策として、軽度な不調は自分で手当てする「セルフメディケーション」の推進を不可欠としています。



セルフメディケーション税制や、薬局でのOTC取り扱いなどからも、国が推進していることが分かります!
キュアからケアへの完全移行
かつての医療は「病気を治す(キュア)」が中心でしたが、これからは生活習慣病や認知症と「共生する(ケア)」が主軸となります。
薬剤師の職能も、急性期の薬物治療支援から、長期にわたる療養生活のマネジメントへと、その重心を完全に移す必要があります!
| 変化の要因 | 具体的な事象(2030年) | 薬剤師に求められるシフト |
| 人口動態 | 地域による高齢化・人口減少の二極化。 | 地域特性に合わせた機能特化(在宅・高度管理等)。 |
| 経済背景 | 社会保障費の増大による医療費抑制。 | OTC薬活用や予防医療への積極介入。 |
| 疾患特性 | 生活習慣病、慢性疾患、認知症の増大。 | 服薬指導から「生活習慣の改善支援」へ。 |
| 医療の場 | 病院中心から「地域・自宅」へ。 | 24時間対応や多職種カンファレンスの主導。 |
「医療4.0」が定義する3つのパラダイムシフト


著者の加藤氏は、テクノロジーによって「医療4.0」の世界が「多角化」「個別化」「主体化」の3軸で進化すると定義していますので、解説していきます!
多角化:病院を飛び出し、日常に溶け込む医療
IoT(モノのインターネット)やウェアラブルデバイスの普及により、血圧、心拍、血糖値、活動量などがリアルタイムで収集されるようになります。
医療という概念が、「病院」を飛び出して「日常」に溶け込むようになってきています!



患者さんの生活が可視化されることで、服薬指導の説得力が変わりそうです。例えば、「最近あまり歩けていませんね」といった、データに基づいた声掛けが可能になりますか?



そうですね!
それは薬剤師にとって大きな武器になる可能性を秘めています。
今までは患者さんの「自己申告」に頼るしかなかった服薬状況や副作用の予兆が、客観的なデータとして私たちの手元に届く可能性も。
そのデータをどう解釈して医師にフィードバックするかが、薬剤師の今後の腕の見せ所になるかもしれませんね!
個別化:PHRとゲノムが実現する「唯一無二の処方箋」
PHR(Personal Health Record)により、患者の全生涯にわたる医療情報が統合されます。
さらにゲノム解析が進むことで、「この体質の人はこの副作用が出やすい」といった予測に基づいた処方が行われます。
また、どのような疾患に罹患しやすいなどの情報も分かります。
主体化:情報の民主化による「対等な医療」
インターネットを通じて患者が高い知識を持つようになり、医療者と患者の間の「情報の非対称性」が解消されます。
患者は自らの価値観に合った治療を選択するようになります。
まとめると、下記の3つのパラダイムシフトがおこります。
| パラダイム | 内容の詳細 | 薬剤師の役割の変化 |
| 多角化 | 場所を問わない24時間のモニタリング。 | デバイスデータの解析と早期の残薬・副作用管理。 |
| 個別化 | ゲノム・PHRに基づく「個別最適化」。 | 遺伝的特徴や既往歴に踏み込んだ高度な疑義照会。 |
| 主体化 | 患者自身の意思決定(SDM)の強化。 | 治療方針を決定する際の専門的アドバイザー。 |
30人の医師が語る医療4.0で「人間がやるべき仕事」とは?


本書に登場する30人の医師たちは、それぞれの専門分野から「テクノロジーに代替されない人間の価値」を語っています!
薬剤師にも当てはまる部分が多くあったため、解説していきます!
知識提供の自動化と「共感」の独占
多くの医師が指摘するのは、正確な診断や知識の提供はAIの方が優れているという点です。
しかし、患者がその情報を受け入れ、苦痛や不安を乗り越えるための「情緒的サポート」は人間にしかできません。



知識量で勝負する時代は終わる、ということでしょうか?
少し不安です・・・



知識をアップデートし続けるのは薬剤師として最低限の義務です!
でも、大事なのはその先。
患者さんが「この先生(薬剤師)に話を聞いてもらえて安心した」と感じ、治療に前向きになれるような関係性を築くこと。
それが「対人業務」の真の価値だということですね!
データサイエンティストとしての資質
本書では、医療データを読み解く「データサイエンティスト」の重要性が強調されています。
薬剤師もまた、バイタルデータ、処方データ、生活ログを統合し、最適な薬物動態をシミュレーションするような視点が求められます。
最近では、社会人大学院で「データサイエンス学部」など専門分野もでております!



薬学部の博士号のみでなく、薬剤師×○○をデータサイエンス領域で身に着けるというのが、今後のキャリア戦略ではトレンドですね!
【データサイエンティストとは?】
データサイエンティストとは、膨大なデータを整理・分析し、そこから得られる知見をもとに企業の意思決定や事業戦略を支援する専門職です。ビジネスの現場では「データに基づいて課題を発見し、解決策を導き出す人」として重要な役割を担います。
データサイエンティストは、単に数字を扱う技術者ではありません。統計学や機械学習などの専門的なスキルを活用しながら、経営課題やマーケティング戦略、商品開発など、企業の幅広い領域に貢献します。データから価値を生み出す力が求められる点が特徴です。
近年では、AI技術の進化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速により、データサイエンティストの重要性がさらに高まっています。企業が競争力を維持するうえで、データを活用できる人材の存在は欠かせないものとなっています。
現場主義と「不便」の解消
お茶の水循環器内科の五十嵐健祐氏は、「圧倒的な現場視点」こそがイノベーションの源泉であると述べています。
現場で働く、私たちのような薬剤師の目線が非常に重要という事です!
患者が薬局で抱く小さな不満を、テクノロジーを使って解決しようとする姿勢が大事ですね。
薬剤師の対人業務はどうかわるのか?


本書の内容から導き出される、薬剤師が今すぐ取り組むべき3つのアクションプランをまとめまてみます!
遠隔医療・デジタルツールへの積極的適応
まずは、オンライン服薬指導やトレーシングレポートの電子化、服薬フォローアップアプリの積極的活用です!
これらを「面倒な作業」と捉えるか、「患者との絆を強めるツール」と捉えるかで、10年後の立ち位置は180度変わります。
最新のテクノロジーにまず触れてみるという意識が重要です!



遠隔医療が進むと、対面でのコミュニケーションが減って、疎遠になる気がしていましたが…



それは逆という考え方がありますよ!
遠隔でも繋がれるからこそ、困ったときにすぐ相談できる「身近なかかりつけ」になれるのではないでしょうか?
中西智之先生(T-ICU代表)が指摘するように、テクノロジーは物理的な距離を埋め、質を均質化してくれます。
私たち薬剤師もそのインフラの上で、最高の専門性を発揮しましょう!
職能の拡張によるヘルスケアデザインへの参画
単に処方箋に従って薬を出すのではなく、患者の健康寿命を延ばすための「デザイン」に関わることです。
運動指導、食事指導、あるいは検体測定室の活用など、予防医療への積極的なコミットが期待されます。
大手薬局では、製薬企業やヘルスケアテックとの共同事業などが目立っていますね!
2030年の薬局のあり方を検討している下記の記事も勉強になります。


エッジの立った専門性の獲得と多職種連携
本書の医師たちがそうであるように、薬剤師も「特定の領域に異常に強い」というエッジ(強み)を持つべきです。
特定の疾患に精通し、医師が治療方針を決定する際のディスカッションパートナーになれるレベルまで専門性を高めることが、代替不能な価値を生みます。



○○といえば、あの人!と言われるような代名詞のような専門性をみつけないといけないですね!
記事のまとめ


「医療4.0」が私たちに突きつけているのは、「昨日と同じ今日を繰り返すことの危うさ」です。
しかし同時に、テクノロジーを味方につけることで、薬剤師という仕事がどれほどクリエイティブで、深い人間愛に基づいたものになり得るかという希望も示しています!
2030年、AI搭載の自動機器が調剤を行い、監査のアシスト、服薬指導の最適な提案がある中で、私たちは患者さんと何を語らうべきか。
その答えは、本書の中に描かれた「未来の医療」の地図に隠されています!



知識という「情報」を渡す人から、体験という「価値」を届ける人へ。
最後までお読みいただきありがとうございました!
